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■比叡山概説
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 比叡山は特別な感慨を抱かせる山です。とくに京都の人々にとっては、愛宕山とともに日常生活と切っても切ることができない存在でしょう。

 山城と近江に跨がるこの山は、滋賀郡坂本村大字坂本より一里一町余、愛宕郡修学院村大字一乗寺より一里十四町にしてその山頂に達し、標高二千七百九十九尺(『日本山嶽志』)とされますが、その高さや距離よりもはるかに大きな存在でした。それは、異称の多さでも証明できます。稗叡山・日枝山・天臺山・臺嶺・艮嶽・北嶺・大嶽・鷲峰・都富士・我立杣……と、数え上げればきりがないほどです。

 古くより「山」といえば比叡山を指していました。江戸時代の地誌には、そのように解説しているものが多く、日本の七高山の一つとして富士山と並んで扱われている点など、微笑ましく思います。『雍州府志』では「第三、比叡山なり」と記しています。もっとも、「七高山」という場合は、836(承和3)年に朝廷から選ばれた近畿地方の霊山(比叡山・比良山・伊吹山・愛宕山・神峰山・金峰山・葛城山)を指し、文字どおりの「高山」ではありません。

 このような動向は、王城の鬼門を守る役目を担っていたからで、そこには延暦寺の存在が大きな要因となっていました。当初、伝教大師最澄がつくったのは比叡山寺〔788(延暦7)年〕と呼ばれ、その後の嵯峨天皇の時代に延暦寺と名づけられました。この延暦とは、永世を意味します。

 大山咋神あるいは山末之大主神といわれた神は、近つ淡海国の日枝の山に坐すと『古事記』に記され、古来からの山岳信仰を伝えています。7世紀後半の大津宮の時代に、大和の国にある三輪山の神(三輪明神)が勧請され、大山咋神は小比叡神、三輪明神が大比叡神と呼ばれるようになりました。

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■地形と地質
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 丹波高原(「京都北山」)と琵琶湖の間には比良山地が連なっています。比叡の山々も地理的には比良山地に含まれますが、花折峠(高坂峠)と途中越(橡生越)の峠で比良や北山と分断されています。このサイトでは大津市途中より南に連なる稜線を、独立した山系として扱います。

 比叡山は琵琶湖の西側、京都からいえば東北部に位置しています。その山系は概ね南北に走り、如意ヶ岳の周辺だけ東西方向に峰を連ねています。その範囲は、東西が高野川左岸(鴨川・淀川水系)と琵琶湖の間で、南北は和邇川右岸から山科盆地の北縁です。

 南北の両端〔途中越と逢坂山(越)〕を除く山系の最低鞍部は田ノ谷峠(375m)で、他の鞍部とともに古来より峠道が発達していました。

 分水線は、比叡山の南部から如意ヶ岳にかけては東方に偏り、琵琶湖側の東麓は1.5km〜2kmしかありません。だいたい東側斜面は急で谷が短く、逆に西側は緩やかで谷も長くなっています。白川(鴨川・淀川水系)は、最大の流域面積を持っており、上流は緩やかな勾配の比較的開けた地形が続きます。

 京都盆地を取り囲む山々の地質は、大半が古生層です。しかし、比叡山から大文字山にかけての地域は、花崗岩に覆われています。この岩の性質は地表面に出ると風化しやすく、侵食もされやすいため、この地域だけ標高が低くなっています。そして、接触地帯は熱変成を受けて固く、比叡山や大文字山の峰だけが高く残っています。

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■比叡山系の山と川
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 比叡の山なみは、南北で約20km、東西は最長で6kmにも満たないものです。

 北部は、主稜のほかに顕著な山稜が見あたらず、そこに、宮メズラ・魚ノ子山・童髯山(大尾山・梶山)・小野山など、標高500〜600mの山が並んでいます。

 中部は、水井山の南嶺より横川・三石岳にかけて、東側へ大きな支稜を派生します。神体山である八王子山まで、大宮川左岸に霊山ノ峰・阿弥陀ヶ峰・神宮寺山などを連ね、回峯行者の修行の道となっています。

 横高山から大比叡にかけての主稜は、標高700m前後の尾根道が続きます。東西の幅が広がるため、四明ヶ岳および大比叡から派生する支尾根は比較的長いものが多く、それらが比叡山への登路になっています。大宮川に向けて張り出す東塔本坂の尾根には、天梯ノ峰と神蔵山があり、琵琶湖岸から望めば大比叡の前衛をなしています。

 白鳥越の尾根には、壺笠山をはじめ青山・テンコ山・瓜生山など、標高300〜500mの峰が並び、志賀越に近い宇佐山を含め歴史上の舞台になった山ばかりです。

 大文字山から長等山に至る、如意ヶ岳を中心とした標高400m前後の稜線は、東西方向に延びて他地域とは違う特徴を持っています。その稜線より南下する山なみには、長等山より逢坂山へ至るものが主稜をなし、逢坂ノ関を通じて音羽山(593.4m)に続いています。

 また、如意ヶ岳の雨神社から四ノ宮と藤尾を分ける尾根が派生し、陰山もしくは諸羽山(柳山)に達しています。

 さらに、大文字山の如意ヶ岳城があった地点より南西側へは、京都市左京区と山科区を分ける尾根が蹴上もしくは御陵方面に延びています。

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 比叡山系1[北部]
北部山系
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 比叡山系2[南部]
南部山系
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 山系から流れ出る河川は、地形的特色を反映して、東西で全く異なっています。滋賀県側は、直接琵琶湖へ流入する小規模な河川が複合的な扇状地を形づくっています。主な河川を北からあげると、和邇川・真野川・天神川・雄琴川・大正寺川・高橋川・足洗川・大宮川・藤ノ木川・東南寺川・四ツ谷川・朧池川・際川・柳川・不動川・百々川・吾妻川など。

 いっぽう京都側は、鴨川・淀川水系の高野川が山系に沿って京都盆地へ流れ、峰々より発生する谷は例外なくこれに合流します。支谷が直接に高野川へ流れ込むため小さなものばかりですが、律川・呂川・大長瀬川・大黒谷・丹住谷・梅谷・音羽川・一乗寺川・白川が比較的大きな規模を持っています。

 山科盆地に面する如意ヶ岳より南部の谷は、山科川にまとまり、京都市伏見区桃山で宇治川へ流入します。主要河川には、四ノ宮川(十禅寺川)・安祥寺川・旧安祥寺川などがあります。

 琵琶湖側の大宮川は、横川の四季講堂(元三大師堂)付近を源頭に南へ流れ、最大の支流である北谷を合流した落合から東に向きをかえ、日吉大社の境内を通って琵琶湖へ流れています。大宮川が北へ入り込んでいるのは、古生層と花崗岩の境界が比叡山の東側で北へ入り込んでいるためです。横高山・水井山・三石岳は古生層でできているため侵食されにくく、600〜700mの高度を維持しています。

 京都側の音羽川は、比叡山より流れる最大の河川で、南南西から西に向きをかえ、修学院離宮の南側で山地を離れます。

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■気象と気候
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 比叡山系の気象をみると、近畿地方中部の特徴を示しており、比較的温暖な地域といえます。年間降水量は、大津で1700〜1800mm、京都で1600〜1700mmです。

 年間積雪日数は、京都市街が10日以下であるのに対し、比叡山は20日。比叡山以北が20〜30日で、ことに山間部は40日に達します。平年、3月下旬まで積雪が見られます。

 春先の特徴として、「比良八荒」を挙げることができます。これは北寄りの季節風が強い時、湖西の比良山麓で非常に強いおろし風が吹きます。毎年旧暦2月24日前後に寒気がぶり返し、湖と山地の気温差によって突風が起こり湖面が荒れるものです。京都では「荒仕舞」といってこれが終わらないと暖かくならないといわれています。

 また、「三井寺おろし」といって日本海低気圧が東へ進むとき、低気圧の中心が隠岐島付近を過ぎた頃から、南寄りの強風が南湖で吹きはじめます。陸上より湖上での風が強くなるのが特徴です。

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煙雨比叡の樹林ニホンザル
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煙雨 比叡の樹林 山中に広く生息するニホンザル
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■動 物
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 哺乳類では、ニホンザル・シカ・イノシシ・イタチ・ノウサギなどが身近かな存在で、他にリス・キツネ・ムササビなどもいるようです。

 ニホンザルは、延暦寺の守護神である日吉大社で神猿(まさる=神の使い)として守られてきたため、目にする機会も多くあります。ただ、近年は人間の生活圏に出てくる頻度が高くなり、2005年度より一部駆除の対象になりました(大津市)。

 落葉広葉樹林が広がる地域を中心に、シカの姿を見ることも多くあります。秋の夜半や早朝には、一乗寺や修学院もしくは山科・四ノ宮の住宅地でも鳴き声が響いてきます。私の家でも、秋になれば連日のようにシカの鳴き声で目をさまします。

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■植 物
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 山麓から中腹までは、アカマツ林(林床は主としてモチツツジ・コバノミツバツツジ)が多く、延暦寺領を中心としてスギ・ヒノキの植林帯が広がります。

 ところどころに、コナラ・クヌギなどの落葉広葉樹林やアラカシ林がみられ、アカガシ・ウラジロガシもかなり上部まで混生しています。比叡山の標高600m以高や横川には、局地的にモミ林が残存し、ツガやイヌブナが優占するところもあります。

 山野草で「叡山」の名がつくものには、エイザンスミレ・エイザンカタバミ(ミヤマカタバミ)・エイザンニンニク・エイザンゴケ・エイザンユリなどがあり、それぞれ比叡山の固有種ではないものの、親しまれてきたことを示しています。

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山系を彩る花たち

バイカオウレン ショウジョウバカマ カタクリ ミヤマカタバミ イカリソウ
バイカオウレン
(3月)
ショウジョウバカマ
(4月)
カタクリ
(4月)
ミヤマカタバミ
(4月)
イカリソウ
(4月)
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シャガ チゴユリ ヤマルリソウ エイザンスミレ ウスギヨウラク
シャガ
(4月)
チゴユリ
(4月)
ヤマルリソウ
(4月)
エイザンスミレ
(4月)
ウスギヨウラク
(4月)
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ムラサキケマン ミヤマキケマン イワカガミ ギンリョウソウ クロミノニシゴリ
ムラサキケマン
(5月)
ミヤマキケマン
(5月)
オオイワカガミ
(5月)
ギンリョウソウ
(5月)
クロミノニシゴリ
(5月)
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ホンシャクナゲ クリンソウ キツリフネ ホタルブクロ カキノハグサ
ホンシャクナゲ
(5月)
クリンソウ
(5月)
キツリフネ
(7月)
ホタルブクロ
(7月)
カキノハグサ
(7月)
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ヤマジノホトトギス ヤナギタンポポ ツリガネニンジン ツリフネソウ ツルリンドウ
ヤマジノホトトギス
(8月)
ヤナギタンポポ
(8月)
ツリガネニンジン
(9月)
ツリフネソウ
(9月)
ツルリンドウ
(9月)
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ミカエリソウ ミゾソバ マムシグサ フユイチゴ ヒトツバ
ミカエリソウ
(10月)
ミゾソバ
(10月)
マムシグサ
(11月)
フユイチゴ
(12月)
ヒトツバ
(通年)
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